ヴェートーベンと60粒のコーヒー豆

第5交響曲「運命」や「第9」で有名なルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)がコーヒー好きだったことは、よく知られています。

やはり作曲家だったウエーバーの回想記には、ウイーンのヴェートーベンの住居を訪れた際に「テーブルの上にはこわれたコーヒー沸かしが乗っていた」と記述があります。

ルーイ・シュレッサーという人の書いた回想記にも「コーヒーは彼自らが最近考案したコーヒー沸かしでいれ」と書かれています。

「ヴェートーベンは来客があると60粒のコーヒー豆を数え・・・」と言われていますが、実際に60粒のコーヒー豆で淹れられたコーヒーがどんなものか想像してみました。

ベートーヴェンの生まれた1770年は、日本では明和7年、江戸幕府第10代将軍徳川家治の時代でした

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60粒のコーヒー豆を計測

コーヒー1杯あたりの豆は10グラム前後が標準と言えると思います。最近のお手軽な、1杯ずつ淹れるドリップタイプでは、7グラム〜18グラムぐらいまで、けっこう幅があります。

武蔵野珈琲店では100CCのカップ1杯あたり15グラムと多目ですが、これはちょっと贅沢な豆の使い方。

粒の大きいマンデリンを選んで、60粒を秤に載せてみると約9グラム。

ヴェートーベンの好んだコーヒーはどうやら「濃いコーヒー」ですから、9グラムだと少し豆の量が少ないと思えます。

60粒のマンデリンは、よく乾燥させた豆なので、ヴェートーベンが使っていた豆より1粒あたりの重さは軽いと思います
計りの目盛りは9グラムを少し超えたところを指しています

ベートーベンが生まれたのは1770年。まさか生まれてすぐにコーヒーを飲んだとは考えられませんから、ベートーベンがコーヒーを嗜むようになったのは1780年後半のころからでしょうか。

当時のウイーンにそんなに深い煎りのコーヒーがあったとは思えません。そうすると、考えられるのはコーヒーカップは小さめだったのではないかというケースです。

また、豆の量が同じでも湯温が高かったり、細かく挽き抽出時間を長くすると、濃いコーヒーになります。ですから、ヴェートーベンは長い時間コーヒーを抽出していたのではないかということも考えられそうです。トルコ式のように煮立てていたとも言われています。

武蔵野珈琲店の手動のミルです。「ベートーヴェンミル」と呼ばれるタイプは、筒のようになっていて上にハンドルが付いています。手で豆を挽き、手応えで豆の固さ(乾燥の具合)を確認するのに使います

コーヒーと作曲

もちろん、今となってはなかなかほんとのところはわかりませんが、そういったことを考えてみると、なんとなくヴェートーベンがどんな顔をしてコーヒーを飲んでいたのかまで想像できそうです。

濃くて苦味の強いコーヒーを何杯も飲みながらヴェートーベンは3番の「英雄」や5番の「運命」、第9番の曲想を練ったのでしょうか。

6番の「田園」の時は、ちょっと軽めのコーヒーのスッキリした味だったような気もします。かつて愛した恋人をテーマにしたとも言われる「エリーゼのために」の時はいったいどんなコーヒーだったのでしょうか。

当時から、カフェのたくさんあったウイーンの街をヴェートーベンがどんな顔をして歩いていたのかちょっと見てみたいですね。

すっかり定着した年末のヴェートーベンの第9演奏会は日本中のホールで演奏されています。まさかヴェートーベンも自分の曲が、遠く離れたアジアの小さな国でこんなに頻繁に演奏されるようになるとは思っていなかったでしょうね